第10話 ハス田のこと (時庭駅)
列車は白川橋梁を超えて北に進む。広がる田園の真ん中を北進すると防雪林に守られた時庭駅が見えて来る。この駅は開業当初は島式2面のホームを有していたが、東側のレールが取り払われ、平成8年(1996年)に公民館と併設して待合室が建てられた。
私は撮り鉄の仲間から「ハスが見頃だよ。」との連絡を受けて時庭駅に向かった。お盆近くの強い日差しの中で、桃色の大輪の花が風に揺れていた。大賀ハスは約2千年前の遺跡から出土した種子を発芽させたもので「古代ハス」とも呼ばれるものである。地元の本間さんとその仲間がハス田を造り育て続け、今では人気の撮影スポットになっている。畔道で本間さんに話を伺うことができた。毎年手間がかかり、特に水の管理がたいへんなこと。そしてハス田に込めた思いを熱く語ってくれました。
「わしらここで生まれて、ここで暮らしてきた。わしら、やっぱりここが好きなんだな。だから、時庭が盛り上がるように、いろんな人にここに来てもらって交流できるような名所をつくりたい。そして『元気な地域だね!』と言われるようにしたいんだ。ここだと列車からの眺めは最高だし、第一、古代ハスって名前も良いべした。」
駅周辺にはグラウンドゴルフ場とハス田の他にコスモスやソバ畑を作り、四季を通して楽しめるように整備しているという。お話を伺った数年後、本間さんは体調を崩し帰らぬ人となったことを知った。本間さん亡き後、仲間が相談して「ハス保存会」を発足させ、ハス田を「本間ガーデン」と名付けて本間さんの意志を受け継いでいるという。
時庭駅の駅ノートには優しいイラストに次のコメントが添えられていた。「梅雨のあいま『庭』の名を冠するその駅は、今日も綺麗に咲いていました。」。この景色には、この地に生きた一人の思いがあり、それを受け継いでいこうとする地域の人々の思いが映し込まれているのだと思った。
※昭和60年(1985年)頃の時庭駅はこちらから
→ 30年前の時庭駅:山形鉄道 おらだの会 (samidare.jp)
※平成28年(2016年)に行われた三駅(西大塚・時庭・成田)合同写真展の様子はこちらから
→ 三駅合同写真展:山形鉄道 おらだの会 (samidare.jp)