第7話 「あっ、ばあちゃんだ」(梨郷駅にて)
車内アナウンスが次の駅が梨郷駅であると伝えている。梨郷駅は、鉄道娘の「鮎貝りんご」の名前の由来になった駅です。大正2年(1913年)10月26日の長井線開業当初は終着駅でした。当時は島式ホーム1面2線を有していましたが、駅舎側の1線が撤去されて埋め立てられ、現在は入線前の大きなカーブが名残として残っています。現在の駅舎は平成11年(1999年)に、 南陽市が新たにログハウス風の待合所として建て直したものです。それはまるで女の子が花を摘みながら駆けあがってくるような趣がある駅です。
幼い頃の私は、おばあちゃんの手を引っ張って、この駅のホームに出かけて列車を見送るのを楽しみにしていたものです。坂を上ってホームに上がると、そこにはいつも爽やかな風が吹いていました。そしてどこまでも続く二本のレールは、私を夢の世界へと誘うようでした。高校に出かける近所のお姉さん達に「バイバーイ」「行ってらっしゃ〜い」などと声をかけると、お姉さん方は笑いながら手を振り、顔なじみとなった運転手さんも苦笑いを浮かべていました。
やがて高校生となった私は三年間の汽車通学を終えて、東京の大学に進学し、就職したのでした。年に何度かの帰省の時も、線路跡に植えられた桜並木の奥に、ログハウス風の駅舎が見えて来る瞬間が大好きだった。迎えに来てくれたばあちゃんを見つけて、その胸に飛びつきたい思いが込み上げてきたものだ。その時の思いは、今でもはっきりと蘇って来る。
窓から進行方向を見ていた二歳の娘が叫んだ。「あ、ばあちゃんだ」。ドアが開き、娘はばあちゃんのもとに駆けていく。ばあちゃんとなった母は、腰をかがめて孫を迎えている。東京の人と結婚することを報告した時、「お前が幸せになってくれれば、それで良いのだ。おめでとう。」と言ってくれた母。私ができた唯一の親孝行は、孫の顔を見せてあげられたことだろうか。母と手を繋いで坂を下りていく娘。あれはあの日の私なのだと思った。
【おらだの会】梨郷駅からの車窓風景もぜひお楽しみください
→ 長井線リポート(24) 不思議に感動できる場所:おらだの会 (samidare.jp)