第1話 帰郷(赤湯駅へ)
東京駅の人混みをかき分けて23番線に上がる。ホームに並ぶ顔に何となく親しみを覚え、服装などにも故郷の香りを感じる。自分と同じように、初めての帰省であるような若い女性も何人か並んでいる。シルバー色(※)の列車に乗り込むと、車内ではすでに山形訛りの会話が飛び交う。啄木の歌ではないが、この大きな声の会話が、故郷への旅のプロローグのように思える。
関東平野を過ぎ福島県内の丘陵地帯の上を走り抜け、一時間ほどすると福島駅に到着する。ここでつばさはやまびこ号と分かれる。つばさは、小さな車体を右に左にゆすりながら奥羽山脈を駆け上る。それはまるで何者かから解放された少年のようである。峠の最頂点を過ぎると、今度は置賜盆地の底を目指して疾走する。故郷に一刻も早く帰りたいという我が思いが乗り移ったようである。眼下に流れる沢に春は新緑、秋は紅葉のパノラマが、幾枚にもわたって車窓を駆けていくのである。この峠道での列車の喘ぎと揺れる鼓動に、旅立ちの時の思いが蘇る。
車内放送が山形鉄道の待ち合わせ時間をアナウンスする。東京を出て2時間20分、列車は赤湯駅3番(※)ホームに到着した。階段を上り跨線橋を4番線に向かう。ローカル線の鉄道娘の看板が迎えてくれる。階段を降りるとフラワーの車両が暖機運転をしている。ホームにガガダン、ググダンという金属がこすれるような音が響いている。若い運転士がこちらを見て、軽く挨拶をしてくれた。私は、ラッピング列車に乗り込んだ。窓をあけて、故郷の風を胸いっぱい吸い込んだ。
【おらだの会】長井線の各駅を舞台にした物語やエッセーを連載したいと思い、突如として発車させてしまいました。ベルも聞かずに出発した妄想列車にお付き合いいただければ幸いです。